深部310km地点

変に明るく、変に暗い

15. 炎式洗濯

コオロギの朝、コオロギとして鳴く。貨物列車は道を逸れた。花畑に到着。無人駅。人間の代わりに虫がたくさん。終点、花畑駅。運賃は花粉団子。ミツバチ駅長が受け取ってくれる。子供を育てるため。ここには汚いものは何もない。雲一つない空、ネモフィラ畑が目立つ。1ヶ所のみ、狭い区域で咲いている。縦180cm、横50cmといったところか。まるで人が埋まっているかの様な面積。好奇心が沸くが、ここには汚いものはあってはならないのだ。ボロボロの線路を辿る。しばらく使われていなかったせいか、線路内にも花で溢れている。彩度の高い赤、青、黄、紫の花と、緑の葉。それ以外は何もない。辺り一面の花。身動きが取れない。それほどに見惚れている。広大な土地が広がっているのに、ここから先は進んではいけないと言われているかのようだ。ボロボロの線路は汚いものとしてカウントされないのか。されない。傷の多さは強さを象徴するため、綺麗事としてカウントされるからだ。私は線路に放火した。ボロボロの枕木は、真っ黒な木炭へと生まれ変わった。炎が炙り出す真実。最端の枕木をはじめとし、来た方向へと次々に放火した。次々と暴かれる真実。いつしか線路内に咲いていた花に燃え移り、辺りは火の海へと化した。明度の高い赤、青、黄、紫の炎と黒い煙。綺麗事が本当に綺麗なものへと変化した瞬間である。気がつくと、辺り一面は黒一色だった。綺麗な光景は一瞬の出来事のように思えた。二度と見られないようだ。寂しさを覚える。青空の下、一面花畑であったこの場所が、炎により洗われ、すすがれ、乾燥され、焼け野原となる。綺麗な光景は一体どちらか。水を使った洗濯機にとっては、皮脂、泥が汚いものであるが、炎を使った洗濯機にとっては、綺麗事、見せかけのベールこそが汚いものであると語っている。どうやらそうらしい。本人が言っているのだから。私は焼け落ちたかつて花だったものを踏みしめながら、かつてネモフィラ畑だった地点へと足を運んだ。てっきり棺に納められた人骨が現れるかと思いきや、出てきたものは年季の入った双眼鏡であった。その横に紙切れ。次の花畑を目指せと書かれている。若干の不快感。どこの誰かも分からない存在に、命令される筋合いはない。綺麗なものを見たお陰で、私の思考は正常を保っているようだ。私はかつてネモフィラ畑だった地面へ寝そべり、辺りで燻る煙を感じながら眠りについた。