深部310km地点

変に明るく、変に暗い

23. カエルせんべい

今朝、道を歩いていると、曲がり角から女の子が泣きながら歩いて出てきた。友達関係か何かだろうか。安直に予想しながら女の子が出てきた角を曲がると、そこには車に轢き潰されたヒキガエルの無惨な姿があった。腸が露出しており、車の進行方向に合わせて赤黒い染みが直線上に点在している。死体は日差し強めの朝日にじりじりと焼かれていた。私は「オッ、カエルだ〜」とマスクの下でこっそりと呟く。見かけたカエルが生きていようと死んでいようと同じリアクションをしたのではないかという淡白さに自分で引いた。
  もし、先ほど見かけた女の子がこのカエルを見て泣いてしまったのなら、私は何と声をかければ良かったのか。声をかけないのは無しとする。私はただ議論がしたいだけであり、真実を突き止めたい訳ではないからだ。誰かにこの議論を持ちかけたい。
  今朝のカエルを思い出しながら、昼食にトマトポトフを食べている。まるでカエルの血だ。頼むからやめてくれそんな妄想は。僅かに残った理性が訴える。ミートボールの代わりにカエルが丸ごと入っている。背中側の皮膚の色は丁度煮込んだキャベツのようだ。今私が口に運んだものは本当にキャベツだったか?それともひしゃげたカエルの皮膚か?ソーセージか?カエルの腸か?
  よく分からないまま昼休憩が終わった。いつも食事の間は何も考えず本当につまらない時間なのだが、今日は久々に楽しめた。なんと言ってもカエルの死体とトマトポトフが脳内で混合されてしまったからだ。最近あった楽しかったことは?と聞かれたらこれを答えてしまうかもしれない程には。楽しかったことを訪ね、残酷な出来事が返ってきた試しがない。楽しかったことは、それを聞いた人々をも楽しくさせる出来事である固定観念がどうやらあり、何が楽しいと感じるかで人となりが決められてしまう。それでも真に楽しいことは、安寧ではなく混沌なのではないかという持論。死ぬまで持って生きたい。