深部310km地点

変に明るく、変に暗い

25. IMGEHIRN 002

「小さい頃から、私は自分の家族があんまり好きじゃなかった。可愛がられなかった訳でもないんだが、なんというか、お互いの間に透明の膜が張られているような感じなんだ。触れられているのに、よく見ると、mm単位で見ると触れていない感じなんだよ。でも他の家族を知らないし、そんなもんなんだろうなと思っていた。そう思うようにしていた。実際のところ分からないからさ。」

 

「私は家族の事を信じたことがなかった。これもはっきりとした原因が分からないんだけど、全員嘘を付いているように見えるんだ。うっすらと。でも、人間って元々そういうもんだろ。全員うっすら嘘を付いているんだ。本音を言う人ってこの世にいるのか?まあ、調べようがないね。そんなこと。」

 

「でもさ、少しくらい信じて欲しかったなって思う時もあるんだよ。応援してると声かけられても、結局口先だけなんだ。私の思い違いかもしれない。それなら良いけど、それも調べようがない。」

 

「そもそも、信じられたところでどうしろっていうんだろう。応援に答えるように努力する?自分のためでなく人のために?私の人生なのに?やめてくれ、言葉で縛り付けないでくれ。私は外部勢力で身動きが取れなくなる状況が死ぬより怖いんだ。全力で振りほどいて逃げたくなってしまう。こうなるともう駄目なんだ。目標達成へ向けた努力どころじゃない。自分の命を救わねばと強迫観念にジャックされる。」

 

『そうじゃないだろ。応援されてもされなくても、人のためじゃなく自分のために努力するのは変わらない。お前は逃げる必要などないんだよ。自分でもよく分かっているだろうに。なぜそんなにまでして逃げたがる?お前の見解を言ってみろ。』

 

「……。結局、認められたいんだと思うんだよ。誰かに。承認欲求なんかクソ食らえといつも思ってるけど、私の心の奥底には確かに存在している。承認欲求が無い人間はいないと思うし、私だって全く無いのが望ましいとまでは思っていない。そして、肝心の誰にってところだが、やっぱり親だと思うんだ。本当にしょうもないんだけどさ。だって、今更親に認められてどうしろっていうんだよ。あの人達の言葉はもう嘘にしか聞こえない。申し訳ないけど。それなのに称賛を求めている。認められたとして、直後に巨大な虚無に襲われるのは目に見えているんだよ。」

 

「大体、私は褒められるのが苦手なんだ。褒められようもんならそれを中和するかのように過去の嫌な記憶が津波のように襲ってくる。あっという間に褒められた記憶は沖合に流され見失ってしまう。頭の中の自然の摂理では、私は褒められるような人間ではないとされており、その摂理がひっくり返されそうになると自然災害として飲み込み全てを無かったことにされる。こんな災害が起こることを原因含めて知っていて、逃げない訳がないだろう。」

 

『でも、最近はそれすら嘘だと思えてきている。最近のお前は、その自然災害を上空から眺めているだろう。正直のところ、お前の状況はもしかすると良い方向に向かっているのではないか?と私は前向きに勘ぐっているところなんだ。その点についてはどうだい。』

 

「どうなんだろうな、どちらとも取れるようにも思えるよ。この自然災害が実は大したことでは無かったと気付いて、今後は大袈裟に反応しなくても良いと判断したのかもしれないし、反対に極度に苦しい状況下からどうにかして脱したく、やむを得ず逃避したのかもしれない。前者なら、貴方の言う通り事態は好転していると考えられるが、後者は逆に悪化していると言える。今はまだ判断つかないな。」