深部310km地点

変に明るく、変に暗い

22. モグラ

自分で言うのも何だが、私は大人しくしていればそこそこの人生を送っていたと思うんですよ。普通に、周りに合わせて、何も余計な事は考えずに。この、”何も考えずに“という点が私にとって問題だったのだ。何も考えずに身の回りの出来事が起こり、終わり、進んでゆき、何も考えずに歳を取る。気が付いた頃には私は消えて外殻だけとなっている。この恐怖から私はずっと逃れられない。手放してしまえば良いものを。もっと身軽に行動できるよ。何と言っても中身が無いんだから!いや、その身軽さが恐いんだって。私は風に乗ってふわふわと漂う風船のように生きているようで、地下を掘って進むモグラのように生きる人間だ。風船に括り付けられたモグラは生きた心地がしない。本来土を掘るために獲得したシャベルのような前足は空を無意味に掻き、無駄に疲弊する。あと、とにかく眩しい!私の目は明るい場所には適していないのに。刺激が強すぎるのだ。干ばつの地、草木は無く、乾いた熱い風が地上を吹き荒れる。モグラの私の居場所は何処へ。明らかに不適なのに、全ての動物はこの地で生きよ!生き残れぬ者は不要である、とのお達し。ばかげている。私と同じモグラの中には、このばかげたお達しを真に受け、風船を身体に装着し始める者もいる。私は雨を待つ。どうにかして乾燥地帯から抜け出したく、掘った場所から崩れてゆく土を防ぎながら。モソモソと、 移動する。  モソモソと。