深部310km地点

変に明るく、変に暗い

11. 保身

かつて、創造主の言うことは絶対であった。独裁政治を敷いており、反論するものなら撃ち殺されてしまった。残機は一機しかないので、撃たれてバラバラになった部品を必死にかき集め、無理やり一機として数えていた。撃ち殺されるのがたった1回であればどうってことない。しかし数十回、数百回と殺されれば、当然部品にボロが出る。給油管は凹んで詰まり、ネジは摩耗し、鉄板はすり減りもう少しで穴が空きそうだ。自分の機体なので綺麗でない姿は見ていて悲しくなってくる。わたしは修理屋へ向かうことにした。具体的に直して欲しい部分を説明し、新しい部品と交換してもらったり、一度溶かして作り直してもらったりした。少し嬉しい。でもまた穴を空けられることを考えると嬉しさの半分は悲しさに濡れた。わたしは追加オプションで表面を今までよりも硬い素材にしてもらうよう頼んだ。許可は得られたが、一度変えたらもう外すことは出来ないと伝えられた。そんな事はどうでもよかった。わたしは元々アルミでできていたところをより強度のあるチタン製に変えた。思えば、全身アルミ製では弱いに決まっている。これは必要な改変である。このような自信もチタン製に変えたからであろうか。強くなった。独裁政治はまだ続いている。わたしは反抗をやめる選択は持ち合わせていない。反抗を止めることは考える事を放棄したことと同義であり、死に値する。わたしはまだ生きるつもりであり、死ぬわけにはいかんのだ。死とはすなわち分解である。リサイクルされ、別の機体の一部となる。部品にわたしの意思があるわけがなく、わたしを形成する全ての部品が集合して初めてわたしとなるのだ。いや、この理論は危険である。わたしは先程修理屋に行って、確かに腹側のネジを新しいものと交換した。表面を覆っておいた部品もだ。どうしよう。この時点でわたしはわたしではなくなってしまったのだろうか。強さと引き換えに、わたしは自分らしさの一部を失ってしまった。どうしよう。わたしは困窮した。わたしは過去を遡った。そもそも修理屋に向かった理由は、自身を綺麗にしたいためであり、綺麗になった姿を望んでおり、綺麗になる選択をして今に至る。この過程はわたし以外誰も関与していない。つまり、今の綺麗で強さを得たが過去の自分の部品を数ヶ所失ったわたしは、正真正銘わたしではないか。よかった。心底安心している。見た目が変わっても、わたしはわたしであったのだ。これで不安の種は除かれた。わたしはふと思いつき、修理屋に戻った。調子に乗っているうちに腹部に爆撃機を付けてもらう算段だ。修理屋はまたも許可を与えた。そして、くれぐれも自分を攻撃しないようにと付け加えた。この修理屋は器が大きいが無駄に大きい置き土産をする質だ。いつもこの置き土産に惑わされる。最近はこの無駄に大きい置き土産が無いと不安になるくらいには慣れているが。わたしはさらに調子に乗り、翼を折りたためる機能も追加した。修理屋は快諾し、己の速さで機体が木っ端微塵にならないようにと付け加えた。