深部310km地点

変に明るく、変に暗い

13. 1

理解が私の仕事から抜け落ちている。何も分からなくなっている。ただ、目の前の現象を認識する。記録する。カメラとほぼ同じである。物を写す肉塊。何を見ても受け入れられる自信がある。私が見たものは全て真実であるため。ジャングルの奥底に佇む新品のウォシュレットトイレがあるとしても。地球の内部が空洞で、中心でルービックキューブが回転していたとしても。入道雲が急に落下し、何万人もの犠牲者を出したとしても。ぬいぐるみを覆う繊維一本一本が虫であったとしても。自宅が海底にあり、潜水艦で友人に会いに来てもらうとしても。神の類に空から常に見守られていたとしても。その神の類と目が合った瞬間、大型車両にすりつぶされたとしても。偶然の思い付きが、世紀の大発見であったとしても。人間より進化したロボットが、人間を奴隷として扱っている様子を上空から監視するドローンであったとしても。デジタル時計の黒い部分が火種となり、大火事となったとしても。皮膚に出血を伴わない穴が開いたとしても。太平洋をオアシスとするラクダがいたとしても。そのラクダが間違えて太平洋に浮かぶ島々を食べてしまったとしても。満足気な様子であったとしても。自分の頭の凹んだ旋毛の型どりが完全なる円錐形であったとしても。人間の心臓がスーパーで売られていたとしても。元所有者の名前が公表されていたとしても。一日三回の静脈注射による栄養摂取方法が普及したとしても。過度な個人情報漏洩防止策により、覆面が義務付けられたとしても。道で拾ったビー玉に、地球外生命体らしき存在が生態系を形成していたとしても。そのビー玉を水に沈めると、生命体が一斉に殖え、外来生物を匿っているという理由で取り調べに応じることになるとしても。謎の生命体が人間に寄生し、日に日に償う罪が増加したとしても。雨が降っても現在と同じ状況に陥ったと語る専門家がいたとしても。自分の心臓の鼓動に合わせて壁、床、天井が同時に振動する部屋が私のすぐ隣を歩いていたとしても。囲炉裏に敷かれた灰に棲みつくアリジゴクがいたとしても。一年間に四歳年を取る体質であったとしても。一年間に1/4 年分の年を取る体質であったとしても。人間の思考を映像化する機器が開発され、被験者の脳内がお茶の間に流れてしまったとしても。路地裏で人同士のまぐわいを目撃してしまうと同時に、野次馬を集める才能が発揮されたとしても。路地裏と野次馬で韻が踏めているとしても。自分が住むアパート中の音が聞こえるスピーカー機能を搭載した耳が付いているとしても。年中花火が見える空があるとしても。私の奇声と、森に住む原住民の言語が通じるレベルで似ているとしても。直径30 cm程の電球が付いた杖を持ち歩いているとしても。オーバードライブのかかった耳鳴りが脳を溶かした原因であったとしても。私は全てを受け入れ、独立したデータとして保存する。